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ヨーロッパのオーガニック認証制度

NPOヨーロッパオーガニック食品普及協会
代表理事 田村 安


まず、オーガニックというものはどういうものであろうか、ということですが、現在の日本においては、まだこの言葉がきちんと普及しておりません。私はこういう仕事をしておりますので、一般の方からも、流通の方からも、メディアの方からもよく質問をうけるのですが、それは「オーガニックって一体なんですか?」ということです。

そこで、私がお答えするのが、オーガニックとはライフスタイルであるということです。オーガニックというライフスタイルを選択するということは、今後もずっと住みつづけられる環境を守るということ、そして健康な生活を守るということです。健康な生活というのは、自分自身の生活はもちろん、地球全体の生活環境も守る、こうした選択がオーガニックなライフスタイルの選択であります。

現在、いろいろな産業がありますが、最も広い面積を汚染していると考えられるのが、農業です。ここでいう農業というのは、第二次世界大戦後、化学肥料と農薬を大量に投入して行われてきた化学農業をさしています。この化学農業が、現在、私たちの食生活のほとんど全てを支えています。特に戦後のことですが、限られた土地の中、また労働力も非常に少なかった時代に、化学肥料と農薬なしには生産は維持できなかったわけです。ただこれを続けていきますと、水と空気と土が汚染されていきます。化学肥料や農薬を散布すると、それがどんどん地下水に染み込んでいきます。この地下水が汚染されますと、人間、広く言えば生命は生きていくことができません。21世紀は水の世紀と言われておりまして、水の取り合いで戦争がおこるのではないか、人類が滅亡するのではないか、とさえ言われています。また、当然ですが大気の汚染も気になります。例えば、農薬の空中散布などを行いますと、大気は非常に汚染されます。そして、土ですが、土が汚染されたりだめになってしまうと、当然そこで農産物を生産することも、土の中の生命活動も成り立たなくなってしまいます。即ち、水・空気・土の汚染は、人類を始めとするあらゆる生命の滅亡を意味しているのです。そして、それを防ぎたいという考え方、実践がオーガニックなのです。

では実際にどういうことをすれば、オーガニック農業、オーガニック農産物と言えるのかをお話しましょう。まず、最初に植物に直接栄養を与えないということが挙げられます。
「植物に直接栄養を与える」ということは皆様も学校で習われたかと思いますが、チッソ・リン酸・カリというこの3種類の栄養素を植物に応じた配合で与えれば、その植物は大きく成長する、実がたくさん成るというわけです。私たちの食生活はこれに大いに支えられていますが、これを否定するということです。次に危険な化学物質を用いない。「危険な化学物質」というのは、農薬、除草剤、殺虫剤など、そして包装材として使用される塩化ビニールなども非常に危険な化学物質を含んでいます。このような危険な化学物質を用いないということです。そして、この2点では現在の危険を防ぐという目的ですが、さらに将来の危険も防ぐ、すなわち生態系を大きく狂わせる可能性もある遺伝子操作、このようなことを、私たちの生活の基盤となる農業に使用するのはやめようじゃないかということです。根幹として、以上の3点を守るのがオーガニック農業であるといえます。

これは、化学農業で行われているぶどう畑の冬の写真です。地面を見てください。ガチガチですね。固い土に杭が立っているだけの、そんな畑です。そしてこちらが、同じ日に撮影したオーガニックの畑なのですが、一目瞭然かと思いますが、緑がたくさんあります。また、ちょっと見にくいのですが、黄色く見えるのはたんぽぽです。この畑は1968年からずっと有機農業を行っています。例えば、無農薬という表記ですが、1年使用しなくても、『無農薬』などと言われることもあるようですが、薬品というのは1年使用しないくらいでは、土壌の中にしっかり残っています。しかし、オーガニックであるということは、先ほどの写真のように、冬であっても土の中で生命活動が行われている、このような状態になっているのです。またこちらの写真は、化学農業の畑で農薬散布がされている光景です。撒いている人は、完全に風防がなされたトラクターの中にいますが、撮影していた私は窒息しそうでした。

これまで述べてきたオーガニック農業、オーガニックで生産することについて生産性やコストを見ていくことにしましょう。先ほども少しお話しましたが、オーガニック農業というのは、化学肥料を投入して生産量を上げることができませんから、基本的にその土地が持っている土地固有の生産性を超えることができません。従って現在、私たちが食している、普通にスーパーなどで手に入る農産物と比較して、コストが高くついてしまいます。さらに、農薬や除草剤を使用しないということは、草取りを行ったり、草を緑肥として鋤き込んだりするため、たくさんの労働が必要となり、労働コストがかかります。さらに虫がついたり、病気になったとき、基本的にはその病気の部分を取り除くしか方法がないわけですから、常に病虫害のリスクがつきまといます。この3つの要因で、オーガニックの農産物というのは、高くなります。もう1つオーガニックの製品が高くなるという理由に、管理された輸送・保管ということが挙げられます。これは、生鮮品に関してはポストハーベスト農薬や放射線処理、また加工品については合成保存料というように、一般品には保存するためにこのようなものがたくさん使用されています。しかし、オーガニック製品の場合、それも「危険な化学物質」として禁止されていますから、輸送や保管の際に温度や湿度を管理するような必要性が出てまいります。よって、ここでもオーガニック製品のコストは上がってしまいます。

このように、全体として一般品に比べて高くなってしまうオーガニック製品に対して、誰かがこのコストを負担しなくてはなりません。これは、生産者だけではとても負担しきれません。消費者も負担する必要があります。そして、さらにこれが最も重要な点ですが、国家も負担しなくてはなりません。国家というのは、国民の安全と生命を守る義務があるわけですから、これは当然国家の責務です。これをきちんと行っているのが、ヨーロッパなのです。

ヨーロッパでは1945年に戦争が終わって、そこから化学農業がはじまったわけですが、50年代に入って生産が落ち着いてくると、一部の生産者や消費者、研究者の間でオーガニック農業を行おうという運動が起こり出し、自発的に取り組む生産者が出てきました。これに対して民間で基準を設けて、それぞれがそれぞれの目指すオーガニック生産物を作るようになりました。それが1960〜70年代の話です。この動きはだんだん大きなものとなってきて、1980年には国が関与せざるを得ない状況になってきました。そこで、フランスでは世界で初めて、農業基本法の中にオーガニックという言葉を明記しました。このときから、国がきちんとオーガニックについて、関与するということをはっきりと示したわけです。1980年代はこのように、ヨーロッパ各国がオーガニック農業に関して、法律を整備していった時代です。そして1980年代後半にはEU統合が持ち上がり、市場が統合されるには、ヨーロッパ共通の1つの制度がなくてはならない、ということで1991年にオーガニック製品に関するEUの統一指令が発表されました。これが、EU全体のオーガニック政策です。

このEUのオーガニック政策というものは、欧州委員会の農業担当大臣の弁によれば、「田園農業政策」と呼ばれます。農業というのは、産業として独り立ちが難しいような状況になっております。つまりみんなで守っていかなくてはならない。それをどういう形で守っていくかということですが、私たちが帰っていける場所、例えば休日を過ごしたいと思う田園としてということが1つです。そしてもう1点がさらに重要なことですが、生産地は、往々にして都会よりも上流にあります。つまり、上流で水が汚染されたら、都会に住む人はその汚染された水を、飲料その他の用途に使用しなくてはなりません。このようなことから、都会の人々の協力も得ながら、環境政策の柱として、農地をきちんと守っていこうという形で田園農業政策を進めています。具体的には、環境を保護するような農業への助成を行うということです。こうした助成や、高くなったコストを都会の納税者に負担してもらうには、都会の理解と協力が不可欠です。そのためにこの田園農業政策は非常に機能しています。

この田園農業政策が効を奏して、1990年代には、かなり大きな需要が生まれてきました。需要が生まれれば、当然生産も大きくなります。特に90年代というのは、このカルフールのように、大手の流通がオーガニックにきちんと取り組んできたという経緯も見られます。1997年時には、約50億ドルだった市場が、2000年には約85億ドル、1兆円を超す市場へと膨らみました。ヨーロッパの食品市場において、こんなにも伸びを示しているのはオーガニックだけです。他の市場は伸びていません。

このように市場が成長する背景には、生産者がきちんとオーガニックの生産物を作っているということ、また流通者がきちんとした取扱いを行っているということを、消費者に対して示していったということがあります。消費者は、それを信じてオーガニックの製品を購入する。また生産者は、消費者が信頼して買ってくれることを見越して、また安心して生産に取り掛かれるということです。この仕組みが認証制度です。オーガニックの製品をきちんと認証していこうという制度です。

この認証において、もっとも重要なことが独立性です。生産者団体、流通業者、あるいはオーガニックのコンサルタントといった立場の人が、認証に携わったら、それはインサイダー取引ということになりますから、消費者は信用しません。外部からのいかなる影響も受けない、こうした仕組みがきちんと成立していたからこそ、マーケットがここまで大きくなったのです。

実際に認証機関が不正なく業務に携わっているかということについては、まず内部に監査部門をおいて監査し、さらに国が定めた公的な監査機関より、外部の監査を受けます。さらにEUの特徴ですが、その国の制度がきちんと運営されているかを監督するため、その国を除いた14カ国からなる委員会を作って、そこがさらに監査します。この欧州委員会の監査は、認証機関だけの監査ではなく、場合によっては生産者に直接監査が入ることもあります。こうした三重にもわたる監査のお陰で、ヨーロッパでオーガニック認証された食品は、安心して食べることができるのです。

こうしたオーガニックの制度、これは最終的には土地や水、空気という環境を守っていこうという制度なのですが、これを支えているのは、それぞれの段階にある人々の責任感と協力です。まず生産者の方。基準を遵守して作るということ。それを国がポリシーをもって推し進める。生産者と消費者の間に入る、流通者はこうして出来上がった製品を、欺くことなく販売する。オーガニックでない商品をオーガニックということは、非常に儲かります。一般の生産方法で作ったものを、コストが高いオーガニック製品として売れば、高く売れますから、これは儲かるのです。このような不正が一切行われていない、ということを国が保証する、つまりインフラストラクチャーが大切です。例えば先般も日本で、ある農協が外国産の製品を、国内の○○産と表示を変えて販売し、それには「需要に応えるためにどうしようもなかった」という言い訳があるようなのですが、こういうことが行われているようでは、認証という機能は一切働いていない、ということですし、消費者もそのような認証であれば、誰も信頼しませんから、高いお金を払って購入しようとは思いません。したがって、マーケットができません。このように、きちんとした信頼制度を作っていくことがマーケットを創造するということであり、全ての人々の協力で環境は守られていくのです。

本日のコンファレンスを共同で開催している、カルフールという流通チェーンは、フランスでもオーガニックに非常に力を注いでおられるチェーンですが、日本の大手流通のように、オーガニックが売れるのであれば、中国の安い労働力を使って、オーガニックを生産し、日本に持ってくればいいじゃないか、という発想はされません。地域、地域のことを考えて、出店している地域の発展と環境を考えて取り組んでおられます。

私が先ほど触れました通り、このあと政府としての取組み、流通としての取組みについて、それぞれの立場の方からお話しいただきます。

本日はどうもありがとうございました。