本日のテーマですが、ヨーロッパと日本のオーガニックトレードということで、認証制度とマーケットについてお話させていただきます。
このグラフは、1997年と2000年のオーガニック食品の売上を示したものですが、約50億ドルから85億ドル、わずか3年間で1.7倍もの伸びを示しています。下から順にドイツ、フランス、イギリス、オランダ、デンマーク、スウェーデン、イタリア、オーストリア、そしてその他のEU諸国となっており、名前を挙げた主要国でマーケットのほとんどを占めております。この3年間で1.7倍に成長したと申し上げましたが、このような調子で毎年のように成長を続けております。こうしたヨーロッパの成長振りを日本でも実現できないかと考えて、私どもはヨーロッパオーガニック食品普及協会を設立し、活動しております。
では日本の現状とは一体、どういうものなのでしょうか。日本は今年の4月から、JAS有機認証制度が導入され、巷でも「オーガニック」「有機」という言葉がよく聞かれるようにはなりましたが、マーケットとしては甚だ未熟です。かつ大変混乱がございます。なぜ、混乱しているのでしょう。これに関して言えることは、消費者がまずこのオーガニックに対して信頼していないということです。マーケットというのは、信用と同義語です。生産者と消費者、そしてその間に流通がありますが、これらの3者間に信頼というものがあるから、購入する人はお金を払う、つまりマーケットが成立するのです。この信頼関係がない、ということは未熟というよりも成立していないとさえ言えると思います。
これは、JASに制度ができあがる前、そして実際に導入された今でさえ、オーガニックに対する言葉の定義がなかったため、生産者や流通者によって、意図的にあいまいにして使用してきたという背景があります。あいまいに使用することによって、物流を確保してきた、そういう歴史があると思います。
オーガニックと有機は同義語となっています。これ以外はオーガニックではありません。あいまいな言葉の例を挙げてみましょう。まず、無農薬。これは農林水産省もガイドラインを作成したりしているようですが、あまり知られていないと思います。そして減農薬、特別栽培、天然、自然食品、そして無添加。添加物をしていないというものでしょうか。そしてサプリメントなども含んだ健康食品。これらが氾濫しています。こうしたそれぞれの言葉のもつ意味を消費者が本当に理解しているでしょうか。恐らく全てを明確に区別できる人はほとんどいないのではないかと思います。この“区別が出来ない”という状況がオーガニックの本当の意味や位置付けをわからなくしている主な原因だと思います。例えば、天然という言葉ですが、これについてどういったものを天然と呼ぶか、定義はありません。しかし、日本恐らくアメリカなどもそうだと思いますが、広告業界の方は、定義がないものはどんなふうにでも使って良いと考えておられるのではないでしょうか。
こうした結果、流通の現場でどういったことが起っているのでしょう。
日本の流通はオーガニックに対して甚だ冷淡だと言わざるを得ません。冷淡というのは、私自身がヨーロッパのオーガニックワインを輸入しており、協会の会員の中にもヨーロッパからオーガニック食品を輸入している商社が何社かございますが、共通しているのは、スーパーなどのバイヤーさんに会ったとき、ほぼ100%の割合で「オーガニック、いいねえ。同じ価格だったら買うよ。」という答えが返ってくるということです。つまり、オーガニックというものが、付加価値の対象ではないということなのです。オーガニック市場とは、付加価値を創造する市場ですから、それが存在しないということは、最初の話にもつながりますが、やはりマーケットが成立していないということにつながるのではないでしょうか。
ですから、このオーガニックに対する信用を高める、ということがオーガニックマーケットの創造になり、日本に必要なのはマーケットを創造するということなのです。そのように考えて、今後生産・流通の方は取り組んでいただければと思っております。
それでは、根源的な話になりますが、私が流通やメディアの方とお話ししていて一番質問が多い「オーガニックって何ですか?」ということについて一言申し上げたいと思います。
先ほどあいまいな言葉の中で、オーガニック=有機だ、と簡単に説明しましたが、こちらの定義についてもやはりいろいろ出回っているようです。では実際オーガニックとは何なのでしょうか。
オーガニックとはライフスタイルです。
このライフスタイル、というものは現在私達が暮らしているこの環境、いつまでも住み続けられる環境を守るんだという考え方です。そしてそれはできるだけ、健康で楽しいものであって欲しい。この健康で楽しい、ということは例えば都会に住んでいる人々が休日などに、ちょっと足をのばして田園地方に出かけてみる。そこには、青々とした緑が生い茂り、おいしそうな野菜や果物が実っていたり、牛がのんびりと草を食んでいたりする。そうしたことが、心を和ませる健康な楽しい生活の1つにつながると思います。
そしてそれはそのまま生産現場につながります。
こうした健康で楽しい生活のフィロソフィーというか、基盤となるものはまさに水と空気と土です。これが汚染され、壊滅してしまっては人類は滅亡します。これを理解した上で、自分が楽しい生活をする。そのためには、オーガニックというライフスタイルを選択する。こうした根底の考え方がなければ、オーガニックとは何であるかを考え・理解し、そしてオーガニックに付加価値を生み出していくことはできないと思います。
基盤として挙げた水についてですが、現在一般に行われている農業では、農薬を使用しますから、土壌が汚染されて土の力がどんどん弱くなってきています。人間が使用できる水というのは非常に限られていて、それは地下を流れていますが、土が汚染されるということは、その土の下を流れている水ももちろん汚染されてしまいます。大気の汚染というのももちろんあるのですが、人間の生活を考えるとき、この水の汚染ということが最も重要となるのではないでしょうか。ヨーロッパではこの21世紀、どうやって安全な水源を確保していくかということも大きなテーマとなっています。水源地を守るプログラムとして、オーガニック農業が位置付けられています。
ここからが商品にも関わってくる話ですが、次にオーガニック農業とは何かという話に移ります。
基本的な定義として、まず植物に直接栄養を与えない、ということが挙げられます。化学肥料である窒素、リン酸、カリというのを土壌や植物に合わせて投入し、生産能力やスピードを高めるのが一般農法の基本ですが、まずそれを行わないということです。
2つめに、危険な化学物質を用いないということです。ここで重要なのが、「危険な」という部分で、オーガニックというと化学物質全てを否定するように考えられがちですが、例えばぶどうの栽培で言えばボルドー液(銅を硫酸で溶いたもので、カビが原因によるぶどうの病気の際に使用される。19世紀に開発され、オーガニック農業においても、現時点の法律で2002年3月末まで、オーガニック認証団体が使用の必然性を認めた場合に限り、使用が認められている。)などは、古くからの方法であり、20世紀、特に戦後急成長した科学技術によって生み出された、安全性が不確かなものではないと判断されるものは、制限付きで使用が認められています。
そして最後に、これは1991年時点でEUで採択されたオーガニック農業ならびに製品に関する規定では入っていなかったのですが、最近出てきたものとして、遺伝子操作を行わないということです。これは、2番目の点ともつながりますが、将来何代にも渡ってどのような影響が出るかわからない、生態系にとって取り返しのつかないことにもつながりかねない危険な方法は使用を認めない、ということです。以上3点が、オーガニック農業は何であるかという基本的な定義であると私はとらえています。
先ほどから、オーガニック農業ではあれを使ってはいけない、これをしないといけないとかいろいろ制限があることを申し上げていますが、こうしたことが高コストにつながっていきます。ただし、この高いコストも過去における農業コストと同じことだと言えます。
どういうことかと言いますと、まず土地固有の生産性を超えられないということです。土地にはそれぞれの固有の栄養分や、土地がもつ地力というものが有りますが、そこに必要な化学成分を投入することで、土地生産性をぎりぎりまで上げて来たのが、化学農業です。それを否定するわけですから、その土地がもつ生産性を超えることは非常に難しくなります。
次に労働コストです。除草を手でするか、除草剤を撒いてしまうか、ということです。
病虫害のリスクもつきまといます。基本的に病虫害に対して農薬を撒いて退治する、という訳にはいきません。その部分を取り除いたり、諦めるしかないのです。収穫量も天候や病気に非常に大きく左右されますから、生産量は安定しません。
そしてポストハーベスト農薬はもちろん禁止されていますから、市場まで運ぶためには品質劣化を防ぐための、定温の輸送や保管といった管理も必要になってきます。例えばワインなどは非常に簡単な例なんですが、赤道を通ってきますから、船のコンテナの温度は非常に高くなります。一般のワインは合成保存料を使用していますから、それでもそのまま運んできても飲めるのですが、オーガニックワインの場合、合成保存料は一切認められていませんので、きちんと温度を管理したコンテナで輸送し、倉庫に保管する場合も定温で行わねばならず、非常に高くつくのです。
こうした理由で高くなったコストを消費者の方に負担してもらわねばなりません。しかし負担してもらうためには、オーガニックに信用がなくてはならないし、最初にお話しした通り、自分が持続できる地球を守るため、社会に貢献していると感じ、さらにおいしいものがあるといった全ての状況が揃わなくてはなりません。この消費者の信頼を生み出すには、民間だけでは限界があり、こうした状況が認証制度につながっていったわけです。
国家が認証することによって、市場のインフラストラクチャーを創る。
それが認証制度というものなのです。この認証制度ができて初めて、ヨーロッパ域内でのオーガニック製品の流通が可能になりました。貿易というのはそうして成立するものです。ただしオーガニック認証制度というのは、単独では機能せず、様々な制度や規定が複合的に絡み合って機能しているということは大変重要で、マーケットの仕組みを全て整え、組み立てていかねばならないのです。
現在、日本に輸入される農産品に関して少しご説明したいと思います。
まず農産品は、農林水産省の管轄ですから、その外郭団体であるJASの管轄となります。JASの下には有機認証団体があり、そこに認定のための高い費用を払って無事認証されると、認定輸入業者というものになることができます。認定輸入業者になると有機JASマークの貼付が可能になります。もう一つ、畜産という分野がありますが、オーガニック畜産に関しては現在のところ、JASの管轄外。どういったものを輸入できるかの決まりを作るのは農林水産省ですが、実際の判断をするのは厚生省の動物検疫所ということになっています。これとは別に、例えばワインといったお酒の類は、財務省の国税庁の管轄となります。
ここで各管理省庁ごとの違いというものを少しお見せしたいと思います。
まず「オーガニック・有機」と表示するためには、農林水産省(以下<農>と表示)はJASマークを義務付けています。一方国税庁(以下<税>と表示)では、オーガニックの証明は必要ですが、JASマークはつきません。次に外国語表示に関してですが、<農>では英語による[organic]という表示について、英語は日本人がそれと理解できるから、という理由で当該国で販売するために表記されている[organic]という言葉がパッケージにあれば、その時点でJASマークがないと罰則を受けるということになっています。これは日本の法律の範囲を超えているといえると思います。しかしフランス語やドイツ語で[organic]を意味する言葉が表示されているものについては、と質問しますと、それらは日本人には理解できないから、という理由で構わないとされています。<税>では、もっと明確で、対象は日本国内向けの日本語の表示のみとなっています。この件に関しては、<農>と全く見解が異なります。輸入に関しては、<農>は認定輸入業者のみ行えるとしており、<税>は酒販業者であれば誰でもできるとなっています。
それでは実際の証明についての両省の見解もあわせて見てみましょう。
現時点において、<農>はEUで公的に認められた認証機関の発行する証明を認めておりません。JAS認証団体による再認証が必要になります。またその再認証の際には、各国政府機関が、その国の認証機関が発行した証明書をさらに証明するという手続きも必要です。この政府機関による証明書の証明を提出し、JAS認証団体が認めて始めて、認定輸入業者は自社が輸入したオーガニック製品にJASマークを貼付することができるのです。<税>では、EUの公的認証機関の証明をそのまま認めておりますから、当然JAS認証団体による再認証(管轄外でもありますが)も、政府機関による証明も必要ではありません。
この政府機関が発行する証明書の証明というものは、EUに関して言うと、現在ドイツ以外の国の場合、各大使館に申請すれば証明をしてくれることになっています。ドイツだけは同等性が認められたにも関わらず、さらに証明書を要求するこの日本のスタンスはおかしいということで、つい昨日まで発行を行わないとしていました。このBioFachを機に来日された副大臣との会見で、日本側がどうしても現状は変えられないということで、今後ドイツ製品に関しても政府から証明書が発行される方向に決定したようですが、詳細についてはおそらく1月以降に発表になるのではないかと思います。
ちなみに私が扱っておりますオーガニックワインの証明に必要なものは次のようになります。
基本的にオーガニックのぶどうの証明は、圃場ごとに行われるものですが、証明書の原本はその農家に必要ですから、まずは証明書のコピー。そして醸造者によるオーガニック製造の自己申告書。まずこの二点で、そのワイン自体がオーガニックであるということは証明できます。さらに輸送の際に汚染されていない(例えば消毒等が行われていないなど)という輸送業者による証明が必要です。これが国税庁が必要とするオーガニック酒類に関する証明書ということになります。
こうして考えていきますと、酒類以外の農産品もなぜ国税庁のようなやり方ではだめなのか、という結論に至ります。そしてJASのこのやり方は完全に非関税障壁になっていると思われます。例えばドイツのオーガニック製品は、先ほどのような理由で完全に輸入がストップしています。ドイツ語での表示はともかく、EUでは域内を流通させるため、英語でも表示されていることが多いので、そうなると違反ということになりますので、輸入ができないというわけです。他に代替手段がないわけでもないのに、こういうシステムを続けているということは、非関税障壁と言って差し支えないでしょう。
なぜ、JASマークが必要なのでしょうか?本来マークというのはマーケティングの手段です。そのマークというものをマーケティングに一切関係のない団体が、なぜ使用を強制するのでしょうか。ここに最大の問題があると言えます。
次に同等性についてです。農林水産省は今年の3月、EU15カ国とオーストラリアに対して、日本のJAS制度と同等の制度を持つ国として、官報で公表しました。ちょうどそのとき来日していた、欧州委員会のゴーウェン農業専門官は、同等性が発表されたことで、ヨーロッパの製造業者が直接JASマークを貼付できると理解したわけです。ところが、実際の手続の交渉になった段階で、農林水産省は「同等性は認めたが、日本はJAS制度と完全な同一を求める」という見解を示しました。これを聞いた日本駐在の各国の農務官、商務官の方々はみな憤慨されました。完全な二枚舌です。同等性を認め、表向きはいいと言いながら、現実には認めない、そういうやり方だったからです。この同等性に基づいて、国税庁は認める通達を出しています。同じ日本政府が認めた同等性の解釈が、省庁によって全く違ったものになったわけです。農林水産省は一体誰を守りたいのでしょうか。
農林水産省は、オーガニックに対して積極的な態度を示していません。ここには、オーガニックなのか、減農薬なのかという問題が出てまいります。減農薬というのは、生産者の方には失礼かもしれませんが、比較的簡単にできます。しかし完全にオーガニックでやっていくのは本当に大変なことで、かなり努力が必要です。一部のJAS有機認証団体は、減農薬も認証しようというとんでもなくナンセンスなことを始めようとしています。
日本でよく聞くことの中に、「日本はモンスーン気候のため、農薬なしでは農業ができない」というものがあります。それでは戦前はどうやって農業をしていたのでしょう。農薬のなかった時代もずっと日本では農業が営まれてきました。また「日本には独自の提携栽培システム(生産者と購入者が直接契約して、一定数量を買い取ることを事前に決める方法)というものがある」ということです。こうした特殊事情をことさらに強調される理由について内情を少し見たいと思います。
日本ではプロの農家の方が非常に少ないという実情があります。専業農家は全体の約16%。第1種兼業農家と言われる、収入の半分以上を農業からまかなっている農家が少し増えて19%。両方を足しても、全体の1/3です。残りの2/3は、収入の大部分を農業以外で得ている第2種兼業農家ということになります。また農家の年齢構成を見てみますと、3年前の資料でも60代以上が2/3近くを占めています。男女別に見ると、20代は男性の方が多いですが、30〜40代では女性の方が多くなっています。50代でほぼ同じというところです。つまり、30〜50代の男性はサラリーマンなど別の職業に就いているということがわかります。
オーガニック農業を始めるのに最も適した年齢は30代です。20代ではまだ経験が足りないでしょう。しかし、その要の30代が農業人口としては一番少なくなっています。60代を超えると、正直申し上げて足腰が弱ってきて、労働がかなり重いものになってきます。つまりポイントはここで、モンスーン気候だからできないのではなく、労働力が足りないからできないのです。つまり農業の構造改革が必要です。60代以降の方にはご引退頂いて、不景気が引き金となって発生している、若い世代の企業からあふれた余剰人口を投入すればいいわけです。これらの2つの資料で、日本の農業に未来を感じられた方はいらっしゃらないかと思いますが、農業構造改革を行うことで、未来も見えてくる。それは有機農業でできると私は思っております。
次に提携栽培に関してですが、現在農産品の大部分は農協が買い上げて販売するという仕組みがとられています。これは、農協から農薬と化学肥料を販売し、できあがった製品を農協が買い上げるという商売です。ですから、農協の組合員にならない限り、実際に商品を市場に出すことはほとんど不可能でした。これを打開する策として、提携栽培の仕組みが生まれたわけです。
しかし、この日本における2つの特殊事情を変えていかなければ、日本にはマーケットは誕生しないのです。変えていくためにどうすればいいか。それがオーガニックマーケット創造に成功したEUに学ぶべきだ、ということなのです。
EUの成功の土台ですが、まずこれには長い経験の蓄積があります。1920年代にオーストリアのシュタイナーという人が提唱したシュタイナー理論に基づき、自然の摂理に合った生活・農業を実践する農法というものが始まっています。これは現在バイオダイナミクスと呼ばれる農法で、特にドイツ・オーストリアを中心に世界中で取り組まれています。これとは別の流れで、戦後どんどん導入された化学農業に対して、1960年代にこれを反省し、自然回帰といった現象が現れます。この運動がオーガニック農業の元となっていきます。大体70年代くらいまでは、小規模なオーガニックストアがぽつぽつとあった、そんな時代です。これは、世界的にヒッピー世代、フランスで言うと68年世代、日本では団塊の世代と言われた若い人たちが活躍する時代です。これがヨーロッパでは民間団体がオーガニックの認証に個々に取り組んでいた時代です。
80年代からは、フランスが初めて、農業基本法の中にオーガニックという内容について盛り込みました。ここから国がオーガニックに取り組み始めました。80年代は各国がそれぞれオーガニックについて法律を制定していった時代です。そして80年代末からEUを統一市場にしようという動きが出始め、1991年オーガニック製品に関する統一の指令が出たわけです。そして1993年までに全ての国が法制化し、施行しました。法制化した約3年後の1996年頃から認証制度がきちんと根付いて認知され、その頃からオーガニックの市場というのは爆発的に伸びてきております。認証制度ができてすぐに出てきたものではありません。何年間かかけて、少しずつ土台を固めてきたのです。このときオーガニックの追い風となったのが、非常に残念なことですが、狂牛病とダイオキシン騒動です。これらが代表する食品汚染が非常に問題になり、オーガニックを必要と感じる消費者は、大規模流通に対してもオーガニックを提供するよう求めていくことになります。そして現在、各国でもシェアの1、2を占めるような大手流通では、どこもオーガニックレンジをもって大きく展開しています。そして2000年からは畜産に関しても共通の認証制度が確立し、発展しています。
またEUはご存知の通り、北はスカンジナビアから南はポルトガルやギリシャまで、気候風土・国民性が全く違った15カ国の集合体です。そのどの国においても実行が可能になるよう、各国がそれぞれに対して容認、検討を行い、最低限守らなくてはならない規則を指令として出し、それを守って生産していく努力をする。こうした努力によって、国民性も風土も全く違う15カ国の中で信頼を保ち、流通を可能にする認証制度ができていったのです。
こうした土台を基にして、消費者・生産者双方に向けた透明性をもった仕組みを作り上げていきました。法律というのは読んでもわからないというか、非常に難しいものですが、それを簡単にまとめてわかりやすくした資料というものを発行して広めています。
紛らわしい表示の排除についてですが、まだオーガニックの制度ができる前、私はある企業の駐在員としてヨーロッパに10年おりましたが、そのときの経験をお話します。
その商品の中に「天然醸造」というものがありました。アメリカ市場向けに「Natural Brewed」という言葉を使用しており、それをそのままフランスに持ち込もうとしたところ、それはだめだと言われました。どうやってnaturalであることを証明するのだ、と言うのです。そこで醸造の工程表を始め、あらゆる書類を揃えてようやく「Naturally
Brewed」と表現することの承諾を得ました。それに関しても非常に小さい表示にしなくてはならなかったり、どの法律に基づくか証明をしたり、かなりの制限を受けての許可でした。しかしこれは良く考えてみれば、天然とか、自然だとか、健康といった言葉に対して、これくらい厳しくパッケージや広告などから表示排除をしてはじめて、オーガニックという言葉の表示が意味をもったものとして生きてくるのです。
認証は非常に明確に定義され、運用されています。AさんはOKで、Bさんはだめ、といったことは絶対ありえません。人間関係という言葉がありますが、それを壊してしまっても実行されなくてはならない制度です。そしてその背後には明確で厳しい監査システムが存在します。ヨーロッパのオーガニック認証制度は三重の監査が行われています。まず生産者や加工者を認証する認証団体の内部に監査組織を設け、検査認証の運用がきちんと行われているか監査します。そして国が公の監査機関を認定し、その監査機関は認証団体の検査に関して監査します。さらに、その国の認証がきちんと行われているかを、その国を除いた14カ国で組織する委員会が監査しているのです。現在日本の金融システムについて、監査制度がきちんと働いていなかったことが原因で、大問題が起り、国際的な信用も失っていますが、このオーガニックの監査制度においても同じようなことが起れば、たちまち日本のオーガニックも国際的な信用を失います。
そしてこのように厳しく、きちんと行われている仕組みについて、生産者・消費者双方にきちんと広報しています。
ヨーロッパの政府は、オーガニック市場を整えるのは国家によるインフラストラクチャー整備であるという姿勢を貫いています。そのためにまず、オーガニックというものに対する理念を統一し、非常に合理的な姿勢で取り組んでいます。つまり実情に合わせて、高すぎると思われるハードルは低目から開始して、徐々に高くしていったり、柔軟に改善する努力をしています。初期の頃は3、4ヶ月に1回とも言える頻度で改定が行われてきました。基本法が変わるということは、各国の法律もそれに合わせて変更しなくてはならないということで、それを面倒に思うようならこうした取組みはできないのです。
また、ヨーロッパではオーガニック農業は環境政策の柱としても位置付けられています。例えばドイツでは、今後5年以内に耕地面積の10%以上を、また10年以内に20%以上をオーガニックの耕地にするという数値目標を掲げています。これはまさに水資源の確保であり、こうした目標を掲げることで、都市生活者の支持を得ようとしています。またこれは農業基本方針や、環境保護政策、広告表示規制など実に様々な複合的な法体系を整備することで、成り立っています。
いくら数値目標を出しても、そう簡単にオーガニック農業者が増えるわけではありません。そのために、きちんとポリシーをもった助成措置がとられています。例えば本日、BIOFACH
JAPANにドイツからたくさんのブースが出展されていますが、これらのブースに対して、オーガニックを広めるためにドイツ政府は助成を行っています。またオーガニックへの転換期間中は、オーガニックと名乗ることもできず、かつ一般農業を行わないことで非常に生産性が落ちてしまいます。こうした収入の減少を補填するための措置も取られたり、いろいろな目的で助成が行われています。安易にただ農業に助成をする、となると都市生活者の反発もあるかもしれませんが、きちんとしたポリシーがあった上での助成措置であればそれに反対する人というのはほとんどいないと思われます。
そして自分たちが行っていることに対して、全て国際的整合性を持たせています。誰に対してもきちんと説明ができる製品であり、生産方法だということです。こうして15カ国でスクラムを組んで国際的にも対抗できる、簡単に言えばアメリカに対しても自分たちの農業をきちんと守れる仕組みを作っているのです。
私は日本も同様にして、自己の農業を守っていかねばならない、そのためには国際的に孤立するようであってはならないと考えています。
最後に、国家によるインフラ整備であるという点で非常に重要なことですが、民間のよりよい品質追及を阻害しないということです。例えば先ほど申し上げたバイオダイナミクスと、戦後に表れたオーガニックでは、もともとの考え方が違いますので、最低限のレベルでは同じものであっても、それぞれがそれぞれのやり方でさらなる品質追求を行っています。ですから、マーケティングにおいてそれぞれのロゴマークをつけて、他との差別化を図ります。これを阻害してはいいものが生まれません。そういった意味でも私はJASマークに関して疑問を感じています。
このように、EUのすぐれたオーガニック制度を日本に導入するには、まず消費者の方々にEUのオーガニック食品に触れていただかなくてはなりません。実際に見て、触れて、食べることで、日本の消費者が本物のオーガニックを知り、オーガニックの世界というものを知ることになります。そのためには、農林水産省が一日も早く非関税障壁を取り払い、ヨーロッパのオーガニック製品が市場に出てくるようにならなくてはなりません。こうしたことが、農業構造改革も含めた、日本のオーガニック化に貢献していくのではないか。こうした形で、日本とヨーロッパのオーガニックトレードは貢献できるのではないかと考えております。
ありがとうございました。