1. オーガニック農業と一般の農業の違い
オーガニック農業の第一の原則として、作物に直接栄養を与えないということが挙げられます。つまり栄養分は土中の微生物が作り出す、というわけです。戦前は化学合成肥料というものは存在しませんでしたから、人類が農業を始めて10世紀、20世紀とずっとそうした物質を使用せずに作物を作っていたのです。しかし戦後爆発的に人口が増え、通常ではその作物が作れない地域にも、作物を栽培したり、短期間に大量に生産する必要性が出てきました。そこで化学的に合成された肥料を投入することで、そうした人口の増加に対応してきたと言うわけです。しかし、それを行わないのがオーガニック農業です。
第2番目として、危険な化学物質は用いない。これは農薬あるいは除草剤といったものを使用しない、ということです。農薬や除草剤というものも先ほどの化学肥料と同様に戦後登場してきたものです。化学肥料これは一般に窒素・リン酸・カリだけを合成して、植物に栄養を与えるわけですが、例えば人間がサプリメントだけでは生きていけないのと同様に植物も成長するためにはいろいろなものを摂取する必要があります。それが偏ったものだけ与えると、病気になりやすく、虫もつきやすい。病気になったり、虫がつくとそれを回避するために、農薬や殺虫剤を与えなくてはならない。病気や虫というのは、人間が撒いた薬に抵抗できるものが生き残っていくので、一度薬を撒いても、次はもっと強い成分のものを撒かなくてはならない、という悪循環に陥っていきます。それが現代の農業なのです。
例えばこれは冬のボルドーのオーガニック農業でぶどうを栽培している畑の写真です。下のほうに黄色く見えるのはたんぽぽの花です。除草剤を撒いて除草せず、雑草は鋤き込むというやり方をしていますのでこういう光景になるのです。続きまして、同じ日に撮影した一般農業の畑です。こちらが通常皆さんも見慣れておられる冬の畑なのではないかと思います。普通除草剤というのは夏の間に撒くのですが、それが冬になっても抜けきらないため、まったく草が生えていない状態です。そして土が非常に固いです。一方たんぽぽが生えていたオーガニックの畑の土は柔らかいです。この違いが何につながるかというと、根の生え方が全く違うんですね。例えばこれはぶどうの木ですから、本来は20mくらい根が張りますが、最近のぶどうはせいぜい2〜4mにしかならないと言われています。ですから木として弱く、その土地に含まれる様々な成分を取り込むことが出来ない、そういう状況になっています。
上記2点がオーガニック農業の大原則だったわけですが、最近になって登場してきた、食物に対する遺伝子操作も絶対禁止されています。現在はこの3点が大原則となっています。
2. 適地適作の原則
先ほどもお話した通り、オーガニック農業では例えば寒冷地で大量の作物を作る、ということができなくなります。即ち適地適作、その土地にあったその土地固有の産物を作っていくということになります。あらゆるものを自分の畑で作るということは、無理なわけで土地に過度な負担をかけないのがオーガニック農業だと思います。また、土地固有の自然との共存という考え方があります。先ほどボルドーの畑で、雑草を鋤き込む、という話をしました。雑草というのは鋤き込んでも鋤き込んでも生えてきます。この雑草と呼ばれるもの、フランス語では「エルブ」英語では「ハーブ」と言われますが、日本でもハーブ農法などありますね。その土地に生息するものすべてをひっくるめて、守っていこう、そうした考え方がオーガニック農業なのです。
こうして考えていくと、オーガニック農業では今売りやすい作物ばかりを栽培するというわけにはいきません。しかし、21世紀それ以降、今後もずっと作り続けていける、そういう農業なのです。
3. 生産性とコスト
オーガニック農業もやはり良い点ばかりではありません。土地に窒素・リン酸・カリという化学肥料を投入しないことで、土地生産性というのは下がってしまいます。土地が持つ力、それを超える生産性というのは望めません。また、除草剤を使用せずに雑草を鋤き込むといったことに代表されるように、人手が必要になるため労働コストが高くなります。また、農薬を使用できないため、病虫害のリスクというものも高くなってきます。病気になったから薬を撒いて治療することは出来ません。例えば病気になってしまった部分は切って捨てるしかないような状態です。
こうしたことは全てマイナス面として考えられますが、現在の日本の経済状況や失業率の増加、推し進められる減反政策などを考えると、オーガニック農業というのは、雇用を生み出し、土地を利用するという意味で、経済を活性化させる1つの切り札なのではと考えます。
オーガニック製品のコストの話に戻りますが、輸送や保管に関しても注意が必要です。例えばコンテナをくん蒸・消毒して製品を運ぶといったことはできませんから、それに対して定温での保管や輸送などが必要になったりします。そこでもコストが発生してくるわけです。
こうして発生するコストを、消費者の方に対価支払いをお願いしないといけない、ということになります。これは、オーガニック農業で作物を作っておられる方や、オーガニック製品を扱っておられる方、皆さんお困りだと思うのですが、例えばオーガニック製品をスーパーに置いてもらうという状況があるとします。バイヤーさんは「オーガニック、いいねえ。同じ値段だったら是非置かせてもらうよ。」といったことをよく言われます。一般の製品よりも、高いコストがかかってしまうのが当たり前なのに、一般製品と同じ価格ならオーガニックを選ぶと言われるということは、オーガニックの価値が全然認められていないということなのです。つまり一番最初にお話したように、オーガニックとは一体なんであるか、ということが一般の方々にまだまだ認識されていない証明のように思われます。ただ、日本で有機農業に取り組んでおられる方々をはじめ、最近声を大きくして紹介されていますので、消費者の方々も段々理解してこられるだろうと思います。
ただここで問題になってくるのは、そのオーガニック製品が本物であるかどうかということだと思います。偽物が横行するようであると、消費者の方々は本物かどうかわからないものに高いお金を支払うことはできません。
また類似品の問題もあります。特別栽培、減農薬、など様々な名称で呼ばれる類似品が出回っています。農薬は1回しか使用していません、などと表示してあるものもあります。農薬はどんどん進歩しておりますので、少ない回数でも効くもの、少量でも有効なものが生まれています。危険でないものを製造するのが化学薬品工業の使命ですから、だんだん弱いものになっていくとは思いますが、だからと言って無条件に受け入れていいとは思えません。
4. オーガニック認証制度
そこで必要になってくるのが、オーガニックの認証制度というものです。オーガニック製品の認証に関して、認証団体(あるいは認証機関)というものが存在します。認証団体の業務は、ある製品がオーガニック製品であるかどうかを検査・調査し、その認証を付与するというものです。この権限は国から委託されます。EUの場合、15カ国ありますが、国によって国が直接この業務を行っているところ(例:デンマーク)や民間企業に完全に委託されているところ(例:フランスなど)など違いがあります。
認証団体の存在意義として、まず先ほども述べた通り、消費者保護という目的があります。即ち本物のオーガニック製品を消費者まで届けるということです。他方、生産者も保護します。即ちオーガニックという言葉が不正に濫用されることを防止します。
認証団体に求められるものは、まずEU規定の遵守です。ではこのEU規定の重要性について少しお話したいと思います。(オーガニック年表)まず1920年代からドイツ、オーストリアでシュタイナーという人が提唱した、バイオダイナミクスという自然と共生する生き方、自然の摂理にあった、暦に従った農業をしていく、自然に逆らわずまた自然の力を積極的に取り入れるという運動がありました。これを推進する人々は今でも化学農業はもちろん全く取り入れずに、取り組んでいます。これとは別に、オーガニック農業というのは化学肥料・農薬で荒廃した農地を取り戻す、それに対する反省というところから発生しました。
その時代というのは、民間の団体が活躍する時代であり、1960年代様々な植民地が独立を果たしていく頃やベトナム戦争と重なります。
1980年にはフランスでは世界に先駆けて、農業基本法にオーガニックというものが取り入れられました。これは世界的に見て非常に画期的なことです。つまり国家がオーガニック農業に取り組むということに乗り出したわけです。国が乗り出すということは、法律です。法的な規制をかけていこうということです。後ほどヴェルディエさんからも話があるかと思いますが、例えばフランスではAB(agriculture
biologique=フランス語でオーガニック農業の意味)マークの導入が決まったりしました。フランスだけではなく、主要国においては大体80年代には各国ごとのオーガニックの規則が作られました。その後EUの統合が行われ、国境が少しずつなくなっていきました。人の動きとともに商品の動きも始まり、来年には通貨の統一も行われます。そうした様々な統一の一環としてこのオーガニックの制度も1つに統合されました。
1991年に欧州委員会の指令によってヨーロッパ全体に対するオーガニックの基準が設けられました。そして加盟各国は1993年までに法体系を整備し施行という形になりました。そのことによって国際マーケットというものが生まれたわけです。
市場が生まれた背景として、EU指令を基準に各国が生産しているため、例えばフィンランドで生産されたものをスペインに持ってきても、ドイツのものをイギリスに運んでも、当然同じオーガニックという扱いで何の問題もなく流通するわけです。最初に申しました通り、オーガニックの原則は適地適作です。その作物にふさわしい土地でとれたものを、それが必要な土地に運ぶ、そういうわけです。
EU加盟15ヶ国は実に様々です。こうした国々の中で流通させるためには、基準が遵守されないことには信用されません。そこでオーガニック製品を認証する認証団体には、完全な独立性が要求されます。これは外部からいかなる影響も受けないということです。これは口で言うのは簡単ですが、実行は非常に難しいものです。皆さんの中でも金融をされている方もあると思いますが、インサイダー取引というものはもちろん禁止されています。これはオーガニック認証制度においても全く同じことが言えるのです。ヨーロッパにおいては、認証団体の役員が生産・流通、あるいはマーケティングを含めたオーガニック製品に関する商業活動に関与することは絶対にありえません。例えば私は、NPOの代表理事でヨーロッパの制度を日本の皆さんに広報する活動を行っていますが、オーガニックワインを輸入販売する会社も経営しています。そういう私が認証団体の役員になる、ということはありえないわけです。もしも私が自分の扱う製品に優先的にオーガニックの認証を与えたとすれば、それは自己取引と同じですから、絶対にしてはいけないことなのです。
さらに透明性ということで、監査制度が整っています。つまり、公に認められた機関による外部監査、各認証団体自身が行う内部監査、そしてEU加盟15ヶ国(自国を除くので結果として14カ国)からなる委員会による監査、こうした三重の監査が行われるのです。このしっかりした監査制度のお陰で、ヨーロッパのオーガニック食品は厳しい基準をクリアしていることが証明されるのです。イギリス、フランス、イタリア、スウェーデンetcみんな様々な考え方をもつ国々の集合ですから、ここまでしないことには誰も信用しないというわけなのです。
こうしたことにより、先ほども申し上げた通り、国際的なマーケットが成立し、市場がどんどん拡大していったのです。
では、実際に認証団体が行うことをざっと説明いたします。オーガニック農業生産あるいは加工等を行っていて、その認証を受けたいと希望した人がまず認証団体に対して申し込みます。その申込を受けて、認証団体は認証にかかる費用の見積りを行い、双方の間で合意されるとそこで契約となります。その後実地に検査を行い、それが基準に従っていれば認証という公的な証明書を発行します。その後最低年1回の定期的な検査を含め、必要に応じて抜き打ち検査や分析などの各種検査も行います。これは、最初にオーガニックと認められれば恒久的にオーガニックと名乗れるわけではなく、ずっと継続してその状態や品質を保つためこうした検査を行うのです。
こうした認証を受けた製品のみが、オーガニックと名乗ることができます。ヨーロッパの場合、日本のJASマークとは違って、マークの貼付は強制されません。オーガニックということを名乗ることができる、ということです。つまり、EUの基準はオーガニックと呼べる最低基準であって、例えばそれ以上に厳しい基準を設けてそれを実践している人々の活動を阻害したりはしないのです。先ほど少しお話したバイオダイナミックという農法は、オーガニックの範疇に属しますが、それ以外にもその農法独自の様々な理論や実践に基づいて栽培されます。ですからバイオダイナミック農法で作られたものは、オーガニックという公的認証のほかに、バイオダイナミックに関する認証も受けているのです。またフランスにはナチュールエプログレという団体がありますが、この団体は政府が定める基準よりももっと厳しい基準を設けて実践しています。こちらに関しても、公的認証のほかに彼らの認証があり、消費者はそれを頼りに自分達の求めるレベルの食品を入手できるのです。
今この中にも認証に関わっている方がいらっしゃるかと思いますが、政府の定めたことしかしてはいけない、といわれているのではないかと思います。この違いというのは、認証団体は認証を行うだけで、その後マーケティングなどに関わるさらに付加価値をつける部分は、ほかの人々が行う、こういう風に分かれているということです。これがヨーロッパの認証団体です。
5. 実証された成果
こういうことによってヨーロッパのオーガニック市場(グラフ表示)がいったいどのようになったか、具体的にお見せしようと思います。1997年から2000年のデータなのですが、97年時点で、50億ドルだったものが、わずか3年間で1.7倍になっています。
農家数(グラフ表示)を見ますと、イタリアで約5万軒、オーストリアが約2万軒、イギリス・フランスが約1万軒というふうになっています。増加数のカーブを見ると、1991年以降急速に増加しているのがよくわかると思います。1999年段階で、全農家数に占めるオーガニック農家数の割合は、オーストリアが群を抜いて多く8%を超えています。EU全体の平均が大体2%となっています。これは寒い土地や様々な条件がありますので、国によってもばらつきがあります。
また耕作面積も農家数よりは若干カーブが緩やかとはいえ、同様に91年以降急速に増加しています。農家数に比べて面積が緩やかなカーブを描く理由としては、オーガニック転換する農家は圧倒的に小規模農家が多いからです。
1997年ぐらいから、大資本が入ってきています。ヨーロッパの場合、大資本の参入の仕方というのが、ホールディングカンパニーの形で行われます。即ち既にオーガニックを行っている会社に対して資本参加を行うということです。大資本というのはブランドマーケティングを行っているところが多いですが、ブランドマーケティングを行っているところにとって、オーガニックというのは非常に危険なのです。例えば自分が100のアイテムを持っていて、そのうち数アイテムをオーガニック化する。するとそれ以外のアイテムはいったい何なのですか、ということになってしまい、全てが壊れてしまう危険性があるので、それを行わないのです。そのかわり、既にオーガニックを行っている企業や生産者に資本を投下して、最終的にホールディング化していく、そういうやり方を行っています。
6. 日本との関係
私たちはヨーロッパオーガニック食品普及協会ということで、日本のオーガニック食品に関しては直接取り組んではおりませんが、今年の3月9日付の官報で、農林水産省は日本のオーガニック製品の基準である改正JAS法と同等の制度をもつ国として、EUの15カ国とオーストラリアを発表しました。つまりこれ以外の国は現在のところ、同等の制度を持っていないということになります。同等というのは、あくまで日本側から見た立場で、逆に関してはまだ不明だと思います。
最後になりましたが、ヨーロッパの制度というのは非常に練れた制度であり、いろんな考え方や思想を複合させたものなのです。それが国際的にまとまって、大きな市場を形成していっている。そのやり方を、日本も同じようにやっていくべきではないか、というふうに私は考えています。1国で孤立して行っても仕方ありません。既に成功している例があるのですから、それを取り入れるのが得策ではないかと考えます。そうすることによって、日本でもオーガニックの市場が形成され、たくさんの農家がオーガニック生産をするようになってくれることを願います。そこで忘れてはならないのが、政府からのオーガニック農業に対する助成金です。ヨーロッパの場合、助成金の制度を作ってどんどん推進しています。国による違いはありますが、大体認証にかかる費用くらいはカバーできるくらいの金額のところが多いようです。
民間や市場の動きだけに任せていては、オーガニックというのは非常に難しいのです。やはり国がきちんとポリシーをもって主導していくことで、市場が整っていくものだと考えます。
本日はどうもありがとうございました。
(以下の内容に関しては、時間の都合上割愛されました。内容をご覧下さい)
7. EUのオーガニック認証制度
・ 長い経験の蓄積
・ 多様な国民性・地理的条件の差異の克服
・ 基本理念の統一
・ 環境保護の柱としての位置付け