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日本におけるオーガニック市場 現状と提案

ヨーロッパオーガニック食品普及協会
代表理事 田村 安



日本にオーガニック食品市場は存在するのでしょうか?私は存在しないと思っています。言葉としての「オーガニック」は認識されていますが、その実体についてはほとんどの人が理解されていないのではないでしょうか。それは、オーガニック認証制度がまだ機能していないからです。
言葉としての「オーガニック」だけが先行している、それが現在の日本のマーケットなのです。

では実際に日本の市場において何が起こっているのでしょうか。これはヨーロッパから日本に来られた方はみな、等しく感じておられることだと思いますが、バイヤー(スーパーマーケットなどの)は 「同じ価格ならオーガニックを選ぶ」といいます。それはつまり、オーガニックが何であるかと言うことを、全く理解して頂いていない、オーガニックというものに付加価値がないということを意味しています。どうしてオーガニックに付加価値が生まれていないかと言うと、オーガニックの信用保証制度がないからです。だから日本にはオーガニック市場が存在しないと言えるのです。

・オーガニック ・有機
・無農薬 ・減農薬
・特別栽培 ・天然
・自然食品 ・無添加
・健康食品

日本では上記のような言葉が、言葉の定義無く使われています。言葉の定義がないというよりも、むしろ販売者の意図的なあいまいさの適用によって、混乱を起こしてしまっています。この混乱状態の中で、どうすればマーケットを創造していくことができるのか、そこに必要なのが認証制度だということになります。

認証制度とはあいまいさを排した判断基準であります。ヨーロッパの基準にはあいまいさが全くなく、非常に明確です。それだけではなく、どんどん改定を重ね、さらに厳しくなっています。10年前にはできなかったことも今日ではできる、だからもっと厳しくしていこう、このようにして改定が何度も行われています。

実際に認証するものは生産方法です。これに関してはあいまいにしか理解していない方が非常に多いのではないかと思われますが、オーガニックの認証というものは生産方法の認証です。
どういうものがオーガニックなのか、大きくは以下の2点です。

オーガニックとは
1. 作物に直接栄養を与えない
化学肥料というのは収穫量を求めて、人間がこうすれば良くなると考えて植物に直接栄養を与える方法です。しかしオーガニック農業はそうではなく、栄養は土中の微生物が作り出すという、非常に根本的な考えに立ち返っています。土を作っていくことがオーガニック農業の基本です。
2. 危険な化学物質・化学技術は用いない
自然に存在するものに手を加え、しかも安全性の保証をすることができない遺伝子組換えの製品を使用しない、ガンなどの病気の原因になりかねない農薬と呼ばれるものは一切使用しない、などということです。

こうした農業においては、通常品より生産性が低くなります。化学肥料によって高められていた生産性が、その使用を中止するのですから当然生産性は落ちます。また病虫害のリスクもあります。農薬を使用しないので、病気や虫によって蝕まれた部分は切って捨てるしかないのです。植物が深く根を張ることができるよう、常に耕すということが必要です。除草剤で簡単に雑草を駆除するのではなく、鋤き込むなど数々の労働力・多くの労働時間を必要としますので、生産コストは自然と高くなります。加工段階において、安定剤や保存料などの添加物は使用しませんので、輸送や保管にも例えば定温に保つなど、細心の注意が必要になりそこでもコストは発生します。

つまりオーガニック製品の生産をするということは、このように高いコストがかかってしまうものであり、消費者にはその対価支払いを求めることになります。ただし、消費者に対価支払いを求めるには、そのオーガニック製品が本物である必要があります。そこで求められるのがオーガニック生産品の信用保証であり、そうしたものが制度として存在しなくては、現実的にオーガニックのマーケットというものは存在しえないことになります。

現在日本では、先に述べたような言葉の氾濫により、オーガニックの信用はインフレーションを起こしています。それはつまり信用が失われているということです。そこで誕生したのが、JASオーガニック認証制度です。しかしヨーロッパにおいては、こうしたオーガニックの認証に関する動きが既に1960年代から存在し、自然発生的に民間の認証活動が進んできたわけですが、日本においては全くこうした経験はなく、今回の制度の導入は、信用崩壊後の市場における信用の創造という非常に困難な立場にあると考えます。
また既に「JASは信じない」という消費者の声も耳にしています。これは先日私がある消費者団体機関紙の編集長の方と話をして聞いたものです。これはどういうことでしょうか。私は先週、オーガニックの認証がなされた納豆を買いました。ある大手メーカーのものでした。おそらく有機農業産の大豆を使用したのでしょうが、まず中には、アミノ酸調味料が含まれている、たれが小さなプラスチックパックに入っています。からしも同様のプラスチックパックです。そして納豆とその2つの調味料の間にはビニールのシートが入り、さらに容器として発泡スチロールの中に入っています。それを覆うビニールのシートがさらにつき、「有機」「オーガニック」と謳っているわけです。

ヨーロッパのオーガニック製品に関しては、危険な化学物質を混入しない、それがオーガニックの精神だろうと思います。つまり原材料にとどまらず製品全体がオーガニックなのです。これは規制されていなくとも、そうした精神があります。例えばこの納豆を買った人が、これらのプラスチック製品をごみに出してしまったら、分別されればいいですがもしそうでなかったら、これらのものが燃やされればダイオキシンが発生する可能性があります。そういうものに対してきちんと指導がなされていない、こういうところから「JASは信じない」という声があがってくるのだと思います。

ではどうすればよいのか?先進事例はあるのでしょうか?
民族国家の集合体であるEUでは、1991年には15カ国で通用する統一した基準が設けられ、それに基づいて各国の農林省が法律を制定し、国家がきちんとオーガニック農業というものを認めています。
日本はこうしたEUの経験に学ばない手はありません。
これは難しい制度ではありません。国家が管理する制度です。国家による明確な定義、運用がなされています。英語では68ページに及ぶ基準書があります。これがEU各国語で、きちんと公表されています。

明確な運用が行われているのは、明確な監査システムが存在するからです。こうした監査というのは、エコサートなどの認証団体がおこなっておりますが、こういった認証機関は完全にどこからも独立した存在です。機関自体ならびにそこに属する人間が、オーガニック製品の販売に関わることは決してありません。認証だけを業務としています。

ただし、このエコサート社の会長は実は牛3頭ほどのオーガニック農場を営んでいます。というのも自分自身でオーガニックの精神を体感していたいからです。しかしこの農場のオーガニック認証はもちろん他の認証機関に依頼していますし、もしも彼の農場が牛3頭規模のものでなく、もっと大規模なものであったなら、彼を会長としておくことは絶対にありえません。つまり販売の利益から完全に独立した存在であるからこそ、認証という業務に携わることができるのです。

さらに対国内、対外国に対する責任が必要です。これは国家がきちんと責任をもちます。EUは加盟国だけでも15カ国に及ぶわけですから、例えばフランスで認証されたものがフィンランドに行って通じなければ、国際認証ではないわけです。

EUの統一基準の第2条で、各国語でオーガニックをなんと表記するか、ということが定められています。ヨーロッパにおいて重要なことはマークではなく、こうした言葉の定義なのです。大切なのはオーガニックという言葉を使っていいかどうか、この1点なのです。

またさらに重要なこととして、生産者・消費者双方に向けた広報活動がきちんとなされています。生産者に向けてはどうすればオーガニック農法が行えるのか,、消費者に対してはどういうものがオーガニック製品であるか、どんな伸びを示しているか、どこに行けば買うことができるのかなどといった広報活動が、国をあげて行われています。例えば、ドイツでは2006年までに農地の10%をオーガニックに、また2011年までには20%にするということを農林大臣が自ら宣言しています。フランスにおいてもプランタンビオというキャンペーンにおいて、学校給食にオーガニック製品を導入し、それに関する授業のカリキュラムといったことも国が政策を盛り込んでいます。大切なことは国がそうした動きにきちんと責任をもっているということです。

国家がきちんとポリシーをもってイニシアチブを取り、決して市場に任せきりにはしていません。言葉が氾濫する状態を放置しないということです。例えば無農薬という言葉、オーガニック農産物であれば無農薬であることは当然なので、パッケージに有機と無農薬両方が謳われるということはナンセンスなわけです。

先ほどオーガニック製品はコストがかかるので、その対価を消費者に求めなくてはならない、と述べました。しかし、それを全部消費者に背負わせてしまったのでは、市場の原理として通常よりも2割、3割と高いオーガニック製品はすぐにはじき出されてしまいます。そこでオーガニック生産者を守るために、EUでは全体としてオーガニック生産者に対する補助を助成措置として行っています。例えば有機転換に関わる費用の一部を補填するといった形です。

ヨーロッパではこうした食物や環境、衛生といった国民の生活に直接関わる重要な問題について、国家は決して市場に預けたりはしません。きちんとしたポリシーをもっていい方に導く、こういうシステムになっています。こうしたすばらしい経験、10年以上にわたる実験を日本が学ばない手はないと思います。ヨーロッパオーガニック食品普及協会はこうした様々な良い点を日本の皆様に知らせていく、そういった活動を行っていくために設立されました。
多くの方が参加していただけることを希望いたします。

本日はどうもありがとうございました。